社会保障給付の中で特に深刻な問題なのは年金の増加である

2020/05/11
社会保障給付の中でで特に深刻な問題を提起するのが年金だ。年金以外にも医療保険や福祉施策の負担増加が予想されるが、必要とされる財源規模の大きさからみると年金には及ばない。「将来の日本の財政問題は社会保障問題だ」と述べたが、そのなかで最重要の課題が年金なのである。そこで以下では、この問題について述べることとしよう。高齢化は次の2つの理由で年金財政に問題をもたらす。

第1に年金受給者が増える。現在約2,000万人の65歳以上人口が25年後には約3,300万人になると予測されている。これから単純に考えても年金受給者数は5割以上増加することになる。第2に各受給者の年金受給期間が長くなる。30年前に比べると現在の平均受給期間は既に5年程度長くなっている。将来は更に2年程度延びると予測されている。以上2つの要因によって年金支給総額は増加する。

他方で保険料や税金を負担する労働人口は今後減少する。このため年金の給付水準を維持するには保険料を大幅に引き上げる必要がある。保険料をそのままにするなら給付を減らす必要がある。旧版の将来人口推計によっても、将来の社会保障負担は著しく増加することが予想されていた。新推計では高齢化がそれより進むという見通しになっているので事態はさらに悪化することになる。

1999年が年金制度の見直しの年になることから厚生省は「5つの選択肢」を年金審議会に示していた。これを受けた年金審議会は1998年10月の意見書で厚生年金について「現在の年金額は引き下げないが、今後の引き上げ幅を抑えて将来の給付水準を引き下げることぱやむを得ない」とした。また、60~64歳に支給されている厚生年金の報酬比例部分の段階的廃止や賃金スライドの凍結なども提示した。

老いに関するふたつの誤解

高齢者の活力や健康感には生活条件の変化も大きな影響を与えている。同じスウェーデンの調査によれば身体的な条件が同じであっても孤立感に悩まされる環境で生活する高齢者は、より疲労感が強く、主観的な健康感が低下し、より多く医療サービスや薬を消費する傾向にある。

平均寿命における性差は今後ますます大きくなっていくと考えられる。とすると、社会的な関係の喪失や孤立感に悩まされる女性の増大は大きな社会問題となっていくであろう。実際、高齢の女性に精神的問題が多く認められることの理由のひとつに、女性の方が男性より配偶者との死別後の生活期間が長いことを指摘する報告もある。

関係の喪失のうちでも特に配偶者との死別体験が寿命を短くすることも報告されている。最近の研究では配偶者と死別してから最初の3ヵ月間の間に有病率や死亡率が急激に増加することが明らかになっている。この研究では50歳から90歳の人々の配偶者と死別して最初の3ヵ月間の死亡率は配偶者と共に生活している同年代の人々と比べると男性では48%、女性では22%増えるというデータが示されている。このような事実をふまえて、どうすれば予防的な援助が可能なのか、どのようなニーズがありえるのかについては、今後のきちんとした研究が待たれている。

高齢者については、しばしば次のような誤解がされている。ひとつは私たちの身体の細胞や臓器は高齢期になるとエネルギーを生み出す余力が限られてくるから、出来るだけケチケチと心身の能力を使う方が長持ちするという考えだ。しかし最近の研究結果はそれとまったく逆で、高齢者の場合でも細胞も臓器もしっかり使って刺激を与えることが必要だということが明らかになった。むしろ能力を使わないことの方が一般的に衰えを招きやすく危険である。一例をあげると血栓症がそうだ。これは血管が詰まり血液の循環障害を起こすもので高齢者に多い病気だが身体を動かしていない、活動しないでいる時期の方がはるかに起こりやすい。

そういう意味では高齢者へのいわゆる保健指導や予防的な教育の中でも「あれをするな」「これもしない方がよい」「なるべく控えめに」といった「禁止的指導」は、それこそ「控えめに」すべきである。因みに健康に有害な物質としての代表ともいうべきコレステロールは65歳以上の高齢者については死亡率に関係しないことが国際的に有名な大規模調査で実証されている。従って中高年者は別として高齢者に対して闇雲にコレステロールを含んだ食品を控えさせることは無益なことである。好きなものを食べて楽しく活動的に生活をエンジョイした方が少なくとも精神面では遥かに有益なのである。

次の誤解は高齢者は老衰と病気のために不健康だという通念である。しかし、実態は70歳代をとってみても疾病による何の症状も示さない人々が少なくとも30%~40%程度いる。そして何らかの症状を示す60%~70%程度の高齢者においても大部分は有意義な社会的な活動を妨げるほどの障害を生じていない。むしろ若い勤労世代の方が一般に高齢者に多いといわれる症状や皮膚病、腰痛、精神障害などに悩まされている。そもそも人の能力には個人によるバラツキが大きく、特に65歳~75歳においては個人差が大きい。従って高齢者を十把一絡げに差別してはならない。